田畑研究室
 田畑研究室では魚類の動物行動学を中心とした研究を行なっています。魚類の学習能力を利用した研究はとても興味深く感じました。(2004年9月取材)


田畑 満生 教授

農学博士

専門分野:動物行動生理学

研究対象動物:魚類

 名古屋大学大学院農学研究科博士課程単位取得後浜松医科大助手、米国国立衛生研究所研究員、ドイツ マックス・プランク研究所研究員、名古屋大学助教授を経て当学教授となる。


 私は魚類の行動生理学について研究しています。行動が起きるメカニズムについての研究です。同時に、魚類の行動を利用して、産業に役立てるための応用研究も行っています。

 十年前から、魚の学習能力を利用した「自発摂餌」とよばれる研究を行っています。これは、スイッチを引っ張ると餌が落下する装置を水槽に設置すると、魚はスイッチと餌の関係を学習して自分で摂餌する行動のことです。学習したあとは、食べたい時に自分でスイッチを引いて餌を食べるようになります。これまでの研究から多くの魚種がこの学習能力をもっていることが分かってきました。

 動物行動学からみると、この行動や学習能力は大変魅力的です。たとえば、群れの中の特定の少数の魚(優占魚)が頻繁にスイッチを入れることが分かってきましたが、それらは特に早く学習する魚でもなく、体の大きい魚でもありませんでした。餌を摂取するという点で大変重要な役割を持つ魚ですが、学習能力や体の大きさに関係なさそうです。とすると優占魚となる素質はどこにあるかという疑問が湧きますが、残念ながら現在のところまだその答えは分かりません。自発摂餌の行動メカニズムを調べていくなかでこんな魚の不思議な姿が見えてきたのです。水中の魚の行動を調べるのは大変難しいのですが、まだまだ興味深い未知のテーマが沢山ありそうです。

 一方、この自発摂餌を産業に利用する研究も行っています。特に、養殖業に利用すると多くのメリットのあることが分かってきました。まず、魚は食欲に応じてスイッチを入れるため餌の無駄がなくなりました。コストの節約ができます。さらに、無駄な餌が海底に沈まないため、水質や水底の環境汚染を低減できることも分かってきました。省力化にも役立ちます。現在、この技術は他大学、研究所、県の水産試験場などとの共同研究により、私たちの大切な蛋白源であるマダイ、ブリ、ニジマスなどの養殖に利用されようとしています。

 このように、自発摂餌という魚の特殊な行動から始まった動物の基礎研究が、産業に役立つ技術になろうとしています。毎年、多くの大学院生や卒研生とともに動物のもつ素晴らしい能力を発見するという楽しみを共有しながら、その一方で、産業に少しでも早く役立つ技術として完成させたいと思っています。(取材:はるか ちかよ)


田畑研究室 四年生

藤田 聡さん

 僕はニジマスの自発摂餌についての卒業研究を行っています。現在、ニジマスを群れで飼育し、魚に自発的にスイッチを入れさせて餌を与えていますが、群れの中ではニジマスが攻撃したり、攻撃を受けたりするために多くのニジマスのヒレに傷がつき、また群れの中で順位ができてくることが分かってきました。そこで、個体識別のためにそれぞれの魚に標識タグをつけて一定期間飼育した後、個体ごとの攻撃量や傷の場所や大きさなどのデータを調べています。

 現在の養殖場では機械での給餌や手まきによる給餌方法で時間を決めて魚に給餌しています。しかし、魚の食欲は環境変動で簡単に変わるため、残餌が多くなって無駄なコストがかかります。 

 最終的にはこの研究を、魚の傷を減らすことに役立てたいと思っています。


田畑研究室 大学院理工学研究科 修士課程

バイオサイエンス専攻 二年生

鈴木 研太さん

 私は魚のヒレの研究を通じて動物の飼育環境の改善の研究をしています。普段、養殖魚は高密度で飼育されているためにヒレによく傷がつきますが、これはストレスや病気の原因になります。また、商品としての価値も下がってしまいます。そこで、自発摂餌を用いて、魚に自発的に水槽のスイッチを引かせて餌を食べさせた場合と、魚の様子を見ながら自分の手で給餌した場合とでヒレの傷のできかたを比較してみました。すると、ヒレの傷は自発摂餌を用いた方が少なくなることが分かりました。魚にとっては自発摂餌で餌を食べる環境が良いということが分かりました。

 また、私は魚の社会にも興味を持っています。魚の行動解析は目視では困難なため、ビデオで記録解析しています。自発摂餌で飼育すると水槽ごとに別々の社会があり、魚のストレスの強さもそれぞれ異なっていることが分かってきました。現在は、いかにしてこのストレスを軽減できるか、魚にとっての良い環境や幸せな環境とはどういうことかについて考えています。同時に、利点の多い自発摂餌が養殖産業に早く普及してほしいと考えています。将来は動物福祉の観点から魚の飼育環境を考えていきたいと思っています。

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