粕谷研究室
 クジラやイルカ、ジュゴンなどの水生哺乳類を専門分野とされている粕谷先生の研究室を訪問しました。(11/1更新)


粕谷俊雄 教授

農学博士

専門分野: 水生哺乳類学

 東京大学農学部水産学科卒業、財団法人日本捕鯨協会鯨類研究所所員、東京大学海洋研究所助手、水産庁遠洋水産研究所底魚海獣資源部鯨類資源研究室室長、三重大学生物資源学部教授のち、当大学教授となる。


 研究対象は、クジラ・イルカ・ジュゴンなどの水産哺乳類です。

 彼らの生活史を研究し、保全管理の仕事に携わっています。生活史とは、成熟する年齢、寿命、一生に産む子供の数、子供の育て方、社会構造などです。人間は、海に何頭クジラがいれば何頭捕っていいのか考えますが、今の学問レベルでは何頭捕ってもいいという数字は出せません。しかし、水産哺乳類に関する一般的な常識がないと人は欲が出てどんどん捕ってしまうので、それを警告するためにも、彼らの生活史を知る必要があります。そのため、保全管理の仕事にも携わるようになりました。

 私が大学を卒業した当時は、鯨類に関する世界の知識はまだ低く、研究され始めたばかりでした。私も最初は船でいろいろな所へ行き、どこにどのようなイルカがいるか調査する傍ら、漁業者が捕ってきたクジラを調べ、年齢、生き方の他、クジラ社会での役割が一生でどう変化するのかも調べました。クジラと言っても種類により様々に違い、一生同じ役割のものもいれば、年齢と共に変化するものもいます。人間と同じように、子供の時は育ててもらうという役割、少し大きくなると自分を成長させるために勉強するという役割、成熟すると自分で生きながら繁殖するという役割があります。シロナガスクジラやミンククジラのように、親に育ててもらうのは半年で後は単独行動で死ぬまで繁殖する種類もいれば、ゴンドウクジラのように親の乳を5〜10年も飲み、雄は離れていくが雌は成熟しても一緒に暮らし、35歳位で子供を産むのをやめ60歳位まで生きる種類も稀にいます。年をとると若い仲間達の子育てを手伝ったり、外敵から逃げる術を伝えたりして、群れに貢献する事も想像ですが考えられます。種類によって社会構造の発達レベルや繁殖力は様々なので、クジラはこういう生き物であると一概には言えないのです。

 シロナガスクジラは数が少ないから捕ってはいけない、ミンククジラは多いから捕ってもいいなどと種ごとにいうのではなく、数は海により違い世界均一ではないため、その地域の個体群ごとに資源・自然を管理しなければなりません。自然を観る目は国 ・時代によって変わります。捕鯨の賛成 ・反対は人の価値判断であり、どちらが正しいとは言えないのですが、そのような意見の不一致がクジラをめぐる国際議論のもとになっているのだと思います。

 現在私は、瀬戸内海のスナメリと沖縄のジュゴンの保護を主体としています。漁業自体に反対するわけではありませんが、稀少な彼らにとって良くない事を人間がしようとしている時に警告をするために、現実に日本の漁業がどの位被害を与えているかデータを集めています。私の仲間や卒研学生が調べた所、漁船の網に誤ってかかって死ぬ鯨類はとても多いのですが、対策が必要だと訴えても証拠がないと動かないのが日本行政の特徴です。はっきりした統計を出したいと考えています。カナダ ・ヨーロッパ諸国ではスナメリに近いネズミイルカの混獲が多く、ピンガーという道具を作り漁船網に装着すると混獲は減ったそうです。ピーピーと高い音を出して鯨類に逃げるよう知らせるのですが、他の魚は高い音には鈍感なため支障はありません。日本でも、お金がかかりますが、水産庁のような漁業を管理する所がそれをつけるよう促したり半分補助したりするなどの作業が必要だと思います。日本政府が許可して海を利用させている以上、副作用を減らす努力も必要なのではないでしょうか。今後も私は、今までに得た知識を活かして保護に努めていきたいと考えています。

(インタビュー:かおり)


粕谷研究室 四年生

東山崎のぞみさん

 私の卒業研究は「水族館の調査」で、今はゼミでの論文の和訳に熱中しているところです。水生動物系に進もうと思ったのは粕谷先生の授業を聞いて水生動物に関心を持ったからです。それと、実家の地元の漁業の方々が魚を捕食してしまうイルカに迷惑していたので、どうにか対策はないものかと気になっていました。これからは、水族館の研究を通して、人間と水生動物や魚類との共存や関係を調べていきたいと思っています。8月から水族館の実習にいくつもりです。





↑たそがれる関さん。

↑カモシカ出現!!

↑センサーカメラを見つめるタヌキ。

↑タヌキの溜め糞。

↑リスに遭遇!!

↑藪の中にイノシシを発見!!

粕谷研究室 研究生

関義和さん

 私はこれまでに主研究であるタヌキについての研究をする傍ら、野生生物研究部での水鳥調査や、現在日本各地で野生化し様々な問題が指摘されているアライグマに関する研究、また某社の手伝いとしてテンのテレメトリー調査を行なってきました。

 卒業研究においては、農耕地周辺の森林におけるタヌキの食性とその季節変化を調べ、かつ彼等の人間由来の食物への依存度とその季節性を明らかにすることを目的としました。タヌキは溜め糞をする習性があるので週に一回程、各溜め糞場を回って新糞を採集し、その内容物を調べました。

 その結果、本調査地のタヌキは花や昆虫、果実など季節毎に最も得やすい食物資源を広範に利用していました。人間由来の食物についてはその利用量は12月に増加することから、人間社会への食物依存度は自然界の食物の量が少ない季節に高まるもの考えられました。近年、疥癬症(かいせんしょう)がタヌキやキツネ等に蔓延し、個体数の動向への影響が危惧されています。その一つの要因として人間由来の食物が集中するゴミ捨て場がこれら病気の伝播の中心になっているのではないかと考えています。野生動物の餌場になるようなゴミ処理の仕方は改める必要があるでしょう。

 年間を通してタヌキの食性を調べることで食性の季節性、また人間社会との関わり合いもより明確になってきます。そのため現在も定期的に山に行き彼らの糞と格闘している日々が続いています。

 野生生物の分野へ進もうと思ったのは、高校の時です。恩師から星野道夫さんの写真集を見せて頂き、それを通して生命という存在の神秘さを知り、自然界の全ての命が変化しているということを学びました。それが結果的に野生生物の世界への憧れとして私の中に存在し、私をこの世界に導いてくれました。そして大学に入り、より自然への魅力が高まり、野生生物にとって棲みやすい環境を維持・回復していくための一助となりたいと思い始めました。将来は幅広い視野を持って、自然の存在や野生生物が置かれている現状など様々なことを多くの人達に伝えていきたいと考えています。

【関さんのプチエピソード】

 タヌキの調査を行っていた時にイノシシが突如現れたらしいのです。じっと木影から覗いていたところ、イノシシが急に関さんの方に方向転換してきて、よく見たらそこはシシ道で、危険を察知した関さんは大声を出してイノシシを驚かせ、なんとか危機を乗り切った事があるのだとか。また、テンの調査を行っていた時、ちょっとした油断から樹海で迷ってしまった事もあるそうです。ある先輩からは、関さんは運があるから一緒に山へ登ればきっと何か見られるよ、という話を聞いた事もあります。何にせよ関さんは本当に運のある方のようです!!

 取材の最後に粕谷先生について尋ねたところ、「粕谷先生は知識も様々な分野に長けており、自然や動物を見る目がとても素晴らしい方です。また、物事を的確にはっきりと言える方でもあり、とても尊敬しています。」とおっしゃっていました。(ともとも)

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