加隈研究室
 応用動物行動学を専門とされている加隈先生の研究室を訪問しました。(2004年10月取材)


加隈 良枝 講師

農学博士

専門分野:応用動物行動学、動物人間関係学

 東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物学専攻博士課程修了後、平成16年10月に本学に着任。


 私の専門は犬や猫を含む家畜の行動学で、応用動物行動学とも言われる分野です。また、問題行動の治療や動物福祉など、人と動物の関係学といわれる分野に関わってきました。これまでいろいろな動物を扱ってきましたが、今後は基本的に犬と猫の行動学が中心になると思います。

 大学生のときは野生動物の研究室に所属してました。卒業研究では上野動物園でエリマキキツネザルやコロブスなどの霊長類の行動を観察して、人がいる時といない時では行動に違いがあるかということを調べました。そこから人が動物に与える影響を知るために、動物の行動制御のメカニズムについてもっと勉強しようと思い、大学院では家畜のヤギを使って、行動観察をしながら採血をしてホルモンなどの生理的変化を調べるような実験をしました。大学院在学中にイギリスに約1年半留学して、動物福祉の理論を勉強したり、猫を中心としたコンパニオンアニマルの行動学の研究をしました。イギリスを留学先に選んだのは、イギリスが動物福祉において先進国だということもありますが、1年間で学位が取れるコースがあり、いろいろな事を集中して学べると思ったからです。実際に動物を観察する仕事が多かったのですが、動物を眺めているのは飽きないので楽しんで研究をしました。

 本学には来たばかりで、まだ研究をはじめていませんが、そろそろはじめたいと思っているところです。この大学に来る前は、イギリスから戻ってから東大農学部の大学院で博士号を取り、そこで研究員として約2年間働いていました。仕事の内容としてはヤギのフェロモンに関する行動生理学の実験をしたり、東大の付属家畜病院に行動治療科があるので、そこで犬猫の行動治療に携わってきました。その他、例えば電話相談や講演など、ペットに関わる社会問題全体に関わってきました。行動治療やカウンセリングに関わっていると、そのなかで飼い主側の問題、そしてペット産業の問題などが色々と浮かび上がってきます。結局ペットの問題行動に取り組もうと思っても、動物行動学だけにとどまらずいろいろな問題が絡んできてしまうので、幅広く勉強したり活動したりする事になってきました。

 犬と猫ではどちらかというと私は猫派で、最近1年生が保護した子猫を飼い始めました。行動やしつけに関心のある方は犬に目が行きがちですが、猫も面白いですよ。今までの猫に関する研究は病気や野良猫の生態に関するものが多いけれど、猫と人のかかわりに関する研究は少ないのでやってみたいです。人間同士のコミュニケーション方法が日本人と外国人とでは異なるように、動物とのコミュニケーション方法にも色々あるかもしれません。日本ではまだペットと人の関わりについての研究がとても少ないので、今後この帝京科学大学からどんどん発信していきたいと思っています。皆さんもぜひ一緒に活動して下さい。


加隈研究室 四年生

今野里香さん(左)、 柳沢綾さん(中)、 猪狩知恵子さん(右)

 3人でパピーパーティーに関する研究をしています。パピーパーティーとは、子犬と飼い主が集まって、しつけの仕方を学んだり、子犬を遊ばせながら適切な社会化をさせる事を目的とした会の事です。3人が中心になって、本学や山梨県動物愛護指導センターでのパピーパーティーの企画・運営をしています。

 大学でのパピーパーティーは1ヶ月に3回(水曜)で1クールとなっていて、主に学生の飼っている子犬が対象です。ハンドリング(犬のどこを触っても嫌がらないようにする事)や、手入れ方法を教えたり、奇異な人(白衣を着た人、変な帽子を被った人、傘を持った人など)への馴化のためにそういう人に遊んでもらったり、ドッグランで犬同士遊ばせたり、コンパニオンアニマルセンター1階で診察台に慣れさせたりします。

 愛護センターでのパピーパーティーは月に1回行っています。そこでは元々、センターから引き取られていった犬を対象にしてしつけ教室が行われていて、そのプログラムにパピーパーティーも取り入れていただきました。時間は大体10時から11時半ですが、質問に来てくださる飼い主がたくさんいるので、終わるのは12時頃になるのが多いです。

 運営する上で大変な事は、レベルをどこに合わせたらいいかという問題です。大学で行う方はほとんどがアニマルサイエンス学科の学生なので、「そんなの知ってるよー」と言われるのですが、愛護センターに来る一般の飼い主は間違った知識をもっている事もあります。スワレ、フセを教える時、手で無理矢理犬のおしりや背中を押している人もいるし、トイレのしつけが本の通りにやっても上手くできないという人もいます。でも運営をし始めてだいぶ経つので慣れてきました。

 卒業研究としては、今野里香さんが飼い主側にアンケートを取り、飼い主がパピーパーティーでどんな事を知りたいと思っているか調べています。猪狩知恵さんは主催者側にアンケートを取り、必要だと思った物、注意点などを調べています。柳沢綾さんはそれらをまとめて、主催者側(動物病院)などに向けたパピーパーティーのマニュアルを作成しています。パピーパーティーの利点や、開催する時最初に揃えておく物、飼い主に伝えておく事、子犬を集めた時の注意点などを、項目ごとに分けてイラストや写真を入れながら記載しています。

 今後は、論文を書き上げるための資料集めをしていきます。英語なので訳すのが大変ですが、もう少しで仕上がるので頑張ります。   (取材:かおり)


加隈研究室 四年生

横森美樹さん

 卒業研究は、近隣の小学校の児童を対象とした動物介在活動です。小学生が大学に遠足に来た際の行動を追跡調査し、滞在時間や各ブースに立ち寄った人数などを調べてみました。この研究は平成15年度の「比較心身症研究会」と「ヒトと動物の関係学会」で発表しました。

 結果は予想していた通り、動物がいないブースに比べ実際に動物がいるブースの方が、児童の滞在時間が長い事がわかりました。また、児童達の感想からは動物とのふれあいが楽しかったという意見が最も多く、これに次いで多かったのが、昼休みに自然に始まったお兄さん・お姉さん達との「おにごっこ」や「だるまさんが転んだ」等のレクリエーションだったという面白い結果になりました。動物介在活動は、人と人とのコミュニケーションツールとしても重要であると考えています。活動に関わる学生や児童たちには、人と動物の関係のみでなく、人と人との関係についても考えながら活動して欲しいです。

 現在は、子供たちが動物介在活動をする前と後で描いた絵の分析をしています。動物だけではなく人間側にも興味があるので、心理学的な面から研究しています。絵の中に「家」・「人」・「木」を描いてもらい、あとの装飾は児童の自由にしています。現在も近隣の小学校からデータをとっているのですが、時々特徴的な絵があり、3〜4回のプログラムをやるうちにその絵が変わっていけば効果があるといえるのではないかと思います。

 描いてもらった絵を分析するために、自分で心理学の本をたくさん読んでいますが、動物の描き方1つにも、口が開いているか閉じているか、口の位置は鼻寄りかどうかなど、本当に細かい所まで分析するようです。1冊の本だけでなく、他の本やインターネット等から情報を得るため、まだ文献を探して勉強しているところです。

 また、父兄にアンケートをとり、動物介在活動についてどう思うか、最近の児童達の気になる点など聞いてみました。1回のプログラムでその子が今後どうなっていくかわかりませんが、1回でもやらないよりやったほうが価値あることを、証明できればと思っています。

 子供の教育が重要視される現代、動物とふれあい命の大切さを学び、自分とは全く違う生き物を理解するというこのような活動は、これからさらに必要になってくると思います。さらに、学ぶということは子供だけのものではなく、人の成長のためには一生必要な活動です。生涯学習として、様々な年代や思考の人を対象とした教育普及活動をしていきたいと思っています。 (取材:かおり)

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